2011年8月15日月曜日

知的障害者の福祉的就労および一般就労に必要な力2009

知的障害者の福祉的就労および一般就労に必要な力2009
<序論>
知的障害の原因は、遺伝子の異常や中毒、感染、外傷などがあるが、4分の3が現代医学では特定できないと言われている。また教育的・文化的環境に恵まれない場合にも、精神発達は遅滞するといわれている。アメリカ精神遅滞学会によると、知的障害とは脳の器質的障害にかかわらず、18歳までに以下の3つの領域のうちの2つ以上が制約を受ける機能障害であるとしている。1つは、言語、読み書き、金銭の概念、自己管理といった概念スキル、2つ目は対人関係、責任、自尊心、規律を守ると言った社会的スキル、3つ目は、日常生活活動、職業スキル、安全な環境の維持と言った実用スキルである。
インクルージョンの理念より、世界は今、全ての子供がありとあらゆる分野でチャンスや結果が平等に訪れる、人権に裏打ちされた「社会的公平さ」が求められている。
これまでは親や施設に保護されてきた知的障害者も、管理されるのではなく、地域社会で自立する動きもある。一般企業や職人を目指す子どももいる。学校教育も、「本人」「保護者」「医師」「教師」などが一堂に会し、良く話し合って指導法を考えていくことが望まれる。
<就労形態の今昔>
歴史を遡ってみると、西洋の施設はキリスト教の慈善活動を出発点とするように、社会の「脱落者」の救済として、病人や障害者は、犯罪者の更生と同様、健全な社会人に近づくように指導・援助されてきている。ともすれば、病気や疾患のためにできないことは、我が儘であり、根性がないかのようにとらえ、従順な作業態度、速くて正確な作業能率を重視しがちであった。
現在では、更生施設、授産所などが障害者の自立支援を行っている。しかし、現実は自立とは程遠く、大阪府内の障害者施設の工賃は、月額が平均で八千円しかなく、全国で最低レベルであるという(2009年52日付朝日)。行政は所得を倍増すべく、支援法を制定した。
現場はどうか。実際にお会いした創立93年の桃花塾通所部の方によると、利用者は18歳から77歳までおり、その一人一人の何らかの適性を見つけることが職員の主な役目である。菓子の加工では一人一人が何か参加できるように、工程を工夫して製品を作る。職員の給与は低く非正規雇用も多く、利用者はトイレの介助から手がかかり、職員はかなり忙しい。(生活の自立も難しい)利用者が(経済的に)自立し、まして企業に勤めたり、(製菓の)経営にかかわることは難しいという。
そもそもNPO法人TOGETHERの上月氏によると、大阪には小規模の作業所が多く、企業就労経験や製菓製造経験のない方が製菓の加工販売をしているために、できた菓子の売り先に苦労しているという。工賃が少ないのは、もともと利益を出す体制ではないためである。多くの作業所に得意・不得意分野があり、小規模のため企業から定期的に大きな仕事を請けられない。作業所のあるべき姿も人によって違う。支援学校の教員が理想とする作業所というのは、利用者が生きがいを持つ所であったり、親が求める作業所職員は、叱らない優しい人であるなど、それぞれの思惑がかみ合わないことが多い。これらの人々の調整役として、これからはコーディネーターが必要である。例えば、多くの作業所が協力して分業して一つの仕事を企業から大量受注したり、あるいは企業の出資で製菓のプロを作業所に派遣して、専門性を高めるなど、調整を行っていく必要があるという。
さらに上月氏によると、知的障害児の自立を阻む要因は、障害児自身の日常生活の自立度の低さ(重度化と親の甘やかし、学校での軽度の子どもの放任)、そして支援法の制定によるという。結局、制定のしわ寄せは現場の職員にむかった。前述の桃花塾のような状態で、作業が効率化して儲けが増えたとすれば、それは職員の涙ぐましい努力のお陰であろう、というわけだ。行政、学校、保護者は皆、本人の利益となるように検討すべきである。
<知的障害児のカリキュラム>
知的障害児には、軽度の子どもから、中程度、肢体不自由との重複障害を持つ子どもまでいて、教育ニーズは一律ではなく、カリキュラムも一人一人異なる。地域生活を意識し、「生きる力の基礎」から「働く力」まで、生活に密着した、実践的なカリキュラムが望まれる。例えば、小学校の生活科では①食事・排泄・清潔・着替えなどの基本的生活習慣、②健康・安全、③遊び、④交際、⑤役割、⑥手伝い・仕事、⑦きまり、⑧金銭、⑨自然、⑩社会の仕組み、⑪公共施設といった11項目の指導が行われている。
知的障害児の教育課程は、軽度では自立活動が省略されることもある。一方の中・重度では、各教科や道徳に分けず、多くは合科・統合の形で指導され、「遊びの指導」「自立活動」の比重が増す。これらは「特定の生活集団に自分が所属している」という意識を持たせる役割がある。そして日本社会で一市民として自立していくのに必要な、日常生活に必要な数々の技能、集団生活や地域生活を営む上で必要なルールやマナー、コミュニケーション方法や電話対応の仕方といった、就労に向けた指導を行っている。
<学校教育で可能な支援方法>
「生きる力」、実際に就労したときに必要な知識、技能、態度、マナー(習慣)を身につけるため、各教科、道徳、特別活動、自立活動で行われている具体例を挙げる。地域のグループホームでの生活を見据えて、朝の会で生活上の課題を話し合いで解決する、給食の時間に、社会人としてのマナーや栄養管理を学ぶ。清掃活動では、課題意識や目的意識を持ち、根気よく役割を果たす。こうして、集団生活を営む上での協調性、働く喜びを培っている。地場産業を活かした作業学習では、農村地帯であれば収穫から加工、販売まで一連の流れを体験させる。地域や専門家の協力を得て、レベルの高いものを目指し、地域社会との信頼関係を深めていく。こうして経験を積んで自分の進路を自分で選択できるし、地元企業も安心して雇うことが可能となる。
<まとめ>
学校とは本来、集団行動で社会性を養い、卒業後の就労に向けて基本的なマナーや知識を得るところである。知的障害児の場合は、教科の学習を応用して得るのは困難であるが、具体的な作業を通じてなら、学習可能である。学校は広く速く要領よく覚える、公務員に向く生徒のためばかりにあるのではない。規則正しい生活習慣と、読み書き計算の基本を身につけ、誠実な自立した社会人を目指すことは、一般の生徒にも当てはまることであろう。自立の第一歩は自分のことは自分で考え決めることであると私は考えている。自立には自己決定を行えるだけの経験と給与の保障が必要である。それには、知的障害者も、できるだけ安定した正社員の仕事に就けることが望ましい。学校の作業学習を通じて、地域社会と密着し、生徒の能力が企業に正しく評価されることが、受け入れの一番の近道であると思う。これからの特別支援学校は、「生きる力」のアップと地域への貢献が望まれている。
大阪南港の2009食の博覧会では、おいしいスイーツを試食してみたら、たまたまつくったのが障害者であった!という風景が時折みられた。障害者の○○さんではなく、一人の個人として普通の風景になるような、適切な支援が進むことを切に願っている。


(2009年仏教大学教育学部講義レポートより転載)

知的障害と広義・狭義の発達障害の同異および各発達障害の定義とその特徴2009

知的障害と広義・狭義の発達障害の同異および各発達障害の定義とその特徴2009
<序論>
知的障害および発達障害の定義は、医学上、教育上、行政上それぞれにおいて異なっており、各国で異なっている。また、教育的・文化的環境に恵まれない場合にも、精神発達は遅滞するといわれている。
<知的障害の定義>
アメリカ精神遅滞学会AAMDでは、「全般的知的機能が有意(危険率5%未満)に低く、適応行動の障害を伴っており、かつ18歳以下に現れる」とし、脳の器質的障害については定義に含めず、3つの領域のうちの2つ以上が制約を受ける“特定の機能障害”としてとらえられている。3つの領域のうち1つは、言語、読み書き、金銭の概念、自己管理といった概念スキル、2つ目は対人関係、責任、自尊心、規律を守るといった社会的スキル、3つ目は、日常生活活動、職業スキル、安全な環境の維持と言った実用スキルである。現在の日本では、知的障害者を“発達の遅れ”とし、脳髄に何らかの障害(器質的障害)を持つことが要件に挙げられている。
医学上で知的障害は、18歳以下の発達期に起こり、認知や言語に関わる知的機能の発達に明らかな遅れがあり、適応行動の困難性―他人との意思の交換の困難、日常生活や社会生活などの行動が育っていない―を伴う状態とされている。
<発達障害の定義>
発達障害があるからといって必ずしも知的障害があるわけではない。発達障害と知的障害の違いは、知的障害は広く発達障害の中に含まれている。そして、発達障害は典型的な場合は診断が容易ではあるが、軽度の場合、明確に境界を引くことが困難であり、早期に診断するほど、擬陽性の率が高くなる。
発達障害には狭義と広義の定義がある。狭義では、3つの特徴を有する障害である。まず、年代が青年期や老年期ではなく、発達期に固有の障害であり、発症が常に乳児期か児童期であること、そして中枢神経系の生物学的成熟に強く関係する、機能の発達の障害あるいは遅れであること、3つめは多くの精神障害を特徴付ける傾向のある、軽快や再発のない安定した経過がみられることである。
ICD-10で定義されているのは、特異的発達障害と、広汎性発達障害(広義の発達障害)である。この中には、精神遅滞や注意欠陥/多動性障害(ADHD)なども含まれる。
<広汎性発達障害の定義>
さらに発達障害の定義を拡大すると、ICD-10に限定される特異的発達障害と広汎性発達障害ばかりではなく、視覚や聴覚などの感覚障害、身体の障害、心と行動の障害による発達の遅滞も含まれる。身体の障害では、脳性麻痺、重症心身障害、てんかんを含んでいる。
広汎性発達障害とは、典型的な自閉症に限らず、自閉症的な特徴を持つ状態の総称である。また、広汎性発達障害には、自閉症スペクトラムに含まれるものと含まれないものとがある。自閉症スペクトラムに含まれるのは、自閉性障害とアスペルガー障害などである。含まれないものとは、主に女児にみられるレット障害と小児崩壊性障害である。
<自閉症の定義>
自閉症スペクトラムには、自閉性障害(小児自閉症)、アスペルガー障害、特定不能の広汎性発達障害、があげられる。そのうちで、自閉性障害ではあっても、IQが70以上の場合、高機能自閉症と呼んでいる。つまり、高機能自閉症とは、「3歳くらいまでに現れ、他人との社会的関係の形成の困難さ、言葉の発達の遅れ、興味関心が狭く、特定のものにこだわることを特徴とする行動障害である自閉症のうち、知的発達に遅れを伴わないもの」を言う。
<LDの定義>
学習障害(LD)とは「基本的には、全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち、特定のものの習得と使用に著しい困難を示す、様々な状態」と定義されている。
<ADHDの定義>
しゃべり過ぎたりそわそわしたり、集中できなくて聞き漏らしたり忘れたりして失敗する子どもの総称である。中枢神経系に何らかの要因による機能不全が7歳以前に現れ、その状態が継続している。「年齢あるいは発達に不釣合いな注意力、及び/又は衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に師匠をきたすもの」がADHDと定義されている。
<広汎性発達障害の対応>
大脳皮質のうち前頭連合野の部分に障害があると、脳内の信号のやり取りに支障が生じ、ADHDやLD、広汎性発達性障害PDDを引き起こすと言われている。大脳皮質以外の、大脳辺縁系のうち、扁桃体に障害があると、PDDを起こすと考えられている。これらの障害は、神経伝達物質の過剰、又は過少によるものと考えられており、薬物による治療も近年検討されている。
自閉症では、話し言葉が出てこないか言葉が遅れることがあり、興味や活動が限局的であったり、目と目で見つめあったり表情身振り豊かに話すことができないといった特徴がある。子どもの認知・情緒の発達を促す、自分で行動のコントロールができるように、ここのスキルを獲得する、異常行動を抑制する、といった3つの働きかけが必要である。TEACCHプログラムの理念やロヴァス法にて、効果が見られている。
LDではあらかじめ、短期記憶や空間認識などが他の子どもより低いなど、何らかの中枢神経系の機能障害に基づく認知機能の特異的な障害である。「黒板への書き方」「黒板の写し方」「発表」「宿題」「自主学習」などに配慮を行う。
ADHDでは、集中が困難であるため「気を散らす刺激を減らす」「易しい課題から始める」、注意力障害のため「課題は飽きる前に、易しい課題で終わらせる」「大切なことをはっきり示す」、情緒障害のため「余分な刺激を与えたり、余分なお説教をしない」「教卓の前に座らせる」とよい。ADHDの父親の25%がADHDであり、遺伝によることが多く、叱っても効果は薄い(努力しても報われない人間不信による、二次的症状が強いように思われる)。対応には薬物投与が効果的といわれている。
発達障害児を指導する際には、まず、アセスメントが大切であり、子どもが何の支援を必要としているか、不要としているか、気持ちを汲むことが大切である。それから、対処の優先順位を考えることも大切である。例えば、自分や他人を傷つける行為は、優先的に第一に対応を考える。次に、家庭に影響を与える、日常生活の問題行動を優先させる。最後に、集団や社会にて生じる問題行動での対処を考える。
<まとめ>
発達障害は、早期に正しく対応するほど教育の効果があり、細かい分類が必ずしも対処の仕方の分類と一致するわけではなく、一人ひとりのニーズに合った対応を考えていくことが望ましい。


(2009年仏教大学教育学部講義レポートより転載)

知的障害の定義、分類、原因、かかわり方2009

知的障害の定義、分類、原因、かかわり方2009

<序論>
知的障害者の概念は、時代や地域によって様々に論じられている。支援のノウハウが確立されている視覚障害等と違い、知的障害者に対する有効な支援の仕方は、いまだ十分に明らかにされていない。知的障害は発達期の障害ではあるが、出生後の環境が適切であれば発現を防ぐことができる場合もある。また、最新の医療技術により胎児期に遺伝子治療の可能性もみえてきた。一方で、“知能検査により意図的に作り出されたもの”が知能ならば、新しい検査法によって“新たに作り出される知的障害者”というのもあるということになる。まずは多様な障害を定義し、原因により整理分類していく。
<知的障害の定義>
現在の日本では、知的障害者を「知能が未発達の状態でとどまり、社会生活への適応が著しく困難なもの」と定義し、“発達の遅れ”としてとらえている。狭義の定義では、脳髄に何らかの障害(器質的障害)を持つことが要件に挙げられている。これに対し、アメリカ精神遅滞学会AAMDでは、「全般的知的機能が有意(危険率5%未満)に低く、適応行動の障害を伴っており、かつ18歳以下に現れる」とし、脳の器質的障害については定義に含めず、“特定の機能障害”としてとらえられている。
<知的障害のアセスメントと分類>
知能検査などのアセスメントにより、知的障害の原因には、遺伝によるもの(内因性)か環境によるもの(外因性)、発生時期が出生前か出生後かなどがある。このような病理型の知的障害ではなく、たまたま遺伝子が不利な組み合わせになっただけ(多因子遺伝が原因)の、生理型知的障害の子どももある。いずれにせよ、アセスメントは障害の一部しかあらわせない。よって、適切にいくつか選択して組み合わせ、支援を助ける手段として、有効に活用していく必要がある。
<知的障害の原因とかかわり方>
知的障害児は、模写や幾何学図形が苦手で、精神年齢にあった模写や書字指導が大切である。また、重なったり埋もれたりする図形を取り出すとき、経験などの個人差が大きい。物をグループ化したり順番に並べることを苦手としたり、数と量の概念が未発達、課題の意図が理解できない場合がある。問題行動により学習が阻害されることもある。たったひとつの作業で脳をフル回転させている場合がある。いきなり脳を“全力疾走”させるのではなく、ウォーミングアップとして、問題行動を防ぐコミュニケーション指導から入る、絵カードの分類課題を学習前に訓練するなど、負荷を減らしてからより複雑な課題へ入っていくほうが良い。
認知機能の障害は、注意障害が原因となる。周囲の物音に気をとられるといった、外的な刺激によって不随意に喚起される注意を受動的注意といい、選択的注意、持続的注意、注意の配分は、能動的注意にくくられる。注意の(認知資源の適切な)配分というのは、複数の課題の中にやさしい文章が混じっていても難しい文章と同じように注意を向ける。持続的注意は、先生の話を最後まで聞けないなど、注意の維持である。誰でも時間が経つにつれ注意散漫になってくるが、その低下率が知的障害者の場合は大きい。「今、注意がそれているよ」と客観的に指摘してやれば、意識して注意するようになり、改善が見られる。
知的障害者が学習課題で低い成績を示す原因として、記憶そのものの障害ではなく、記憶の機能不全があげられる。記憶のシステムはまず、感覚記憶が貯蔵され、それから短期記憶に入る。この後、知的障害者はリハーサルを自発的に行わないため忘却しやすい。いかに、長期記憶へ移らせるかといった、記憶の方略の訓練が、知的障害の場合は有効である。
運動では、生活の質の改善からも、筋力やバランス能力の向上が望ましい。特に、ダウン症の場合は筋緊張が低下するため、運動に苦手意識を持ちやすく、早期から訓練が必要である。
見てじっくり考えてそれから言葉を選んで流暢に文章を話すと言う行為は、記憶機能と協応運動に障害がある知的障害者にとってとても複雑な作業であると言える。重度の子どもには、行動をまねて行動で覚える、まねて遊ぶといったステップを経るとよい。考えるときは自分に質問し、言葉に出しながら答えていくのは、ワーキングメモリの負荷が少なく、有効な方法である。
<知的障害児の心理特性>
記憶については、まだまだ不明な点が多い。よく記憶する人は良く回想している。記憶の苦手な人は、自分自身の記憶能力を過信し、暗記の努力が不足しているのかもしれない。逆に記憶の取り出し方を、特別記憶能力に秀でた人に聞いてみると、1枚の鮮明な画像や1本のリアルなビデオを再生するかのように、多量の情報をすらすらと誤りなく取り出しており、それが決して全力を尽くしていないところに、余裕が感じられる。記憶の経路や使用している部位が違う可能性もあるが、記憶の再生能力の差であるのかもしれない。知的障害者の場合も、文字の記憶には、脳のたくさんの機能を使っていると思われる。健常者と別の経路を使用しているかもしれないが、単に記憶の再生が不確実で遅いだけであるかもしれない。知的障害者の記憶の固定が悪いのは、ながら作業が苦手で、そのために、記憶した後に何かをしながら思い浮かべるリハーサルが困難なためであるかもしれない。

<まとめ>
心理学から知的障害についてみると、学派によって多くの理論があり、心理機能の見方もさまざまである。科学的にとらえにくい意識(感覚や感情)の研究に始まり、条件付けなど科学的な動物実験により学習の理論がうちだされ、行動主義、経験主義、知覚心理学、さらにヒトや動物の脳をコンピュータに喩えた認知心理学へと発展、認知科学へと統合されてきている。脳の心理機能を入力、処理、出力の3つに括ってとらえ、知的障害が特定の機能障害であるという理論もある。学習は、処理系の心理機能である。負荷の強い作業を長時間こなすと、集中力が落ちるのは、誰しもあることである。知的障害児は処理中の記憶容量(ワーキングメモリ)や、注意持続時間が低く、同時に処理したり、複数の学習手がかりの中からそのひとつに注意を向けにくいという特性がある。アセスメントを活かし、スモールステップにする、注意喚起はカードを用いる、ワーキングメモリの負荷を軽減してやれば、学習が可能となる。課題を工夫し、子ども一人ひとりに合った学習方法で行うのが良い。知的障害児の心理特性を活かした対応法は、今問題になっている発達障害のこどもたち、「自閉症スペクトラム(高機能自閉症と自閉症)」と「アスペルガー症候群」、学習障害LD、注意欠陥多動性障害ADHDなどの場合においても有効な方法であると思われる。

参考文献
特別支援教育ソーシャルスキル実践集 支援の具体策93……岡田 智他、明治図書


(2009年仏教大学教育学部講義レポートより転載)

重複障害児に対する自立活動2009

重複障害児に対する自立活動2009

<序論>
重度・重複障害児は、医療・福祉の現場では「重症心身障害児」と呼ばれ、重度の知的障害と重度の肢体不自由が重複している児童のことであり、IQが25以下で極めて運動の制約がある児童、あるいは有用な運動ができても行動異常、視覚や聴覚の障害を有する児童。またはIQが25以上50以下且つ何ら有用な運動ができない児童のことである。平成7年には、この「重症心身障害児」よりも重度で、濃厚な医療介護を継続的に必要とする「超重症児」の区分も定義されている。どちらも、家庭内での療育が困難であり、医師や看護婦による医療・療育活動が行われている。
多くは身体発育が不良で、生命維持がかろうじてできるか困難な状態であり、意志や欲求を表しにくく、周りの人とのコミュニケーションが取りにくい児童である
<重複障害児の自立活動>
自立活動は、他の特殊教育と同じく、5つの領域に分かれており、1.健康の保持、2.心理的な安定、3.環境の把握、4.身体の動き、5.コミュニケーションとなっている。指導する上で重要な点は、管理・保護的な支援は必要最小限に抑え、本人が自主的・主体的に活動するように温かく見守ってあげることである。そして、本人が自分の持てる力を最大限に発揮し、自立を目指すことが重要である。
1.健康の保持では、食事や睡眠、排泄等の日常の生活リズムを確立する。生活リズムを整えることは、2の心理的な安定にもつながる。食事摂取を中心とした栄養指導を行い、夜と昼の睡眠リズムを作り、自力ではできない排泄がスムーズに行えるよう促す。また、身体のいろいろな機能や感覚を鍛え、基礎的な体力をつけることが重要である。
2.心理的な安定をはかるには、教師が予め児童のことを良く知っている必要がある。新しい環境が苦手な児童を慣れさせたり、ストレス溜める前に音楽を聴いたり遊んだりして解消する。粘土で物を作らせるのも良い。児童に何かをさせるときは、精神構造が未分化のため、現実的、具体的、必要感の高い動機付けをしてやる。例えば、実際に農村へ連れて行き、畑や作物を見せ、音や臭いに触れるとよい。
3.環境の把握をしようにも、重症心身障害児の場合、障害に取って代わる手段の活用も難しく、認知や行動の手がかりとなる概念の形成も困難である。コミュニケーションをとる前に、まず、周りに誰がいて、どんな気持ちでいるのかを感じ取るところから始まる。
4.身体の動きでは、体育により、関節の可動域をゆっくり広げたり、行動領域を広げたりしていく。また、日常の諸動作について、多少でも子ども自身が直接関わるように働きかける。
5.のコミュニケーションは、障害の種類によって異なるが、基本は外界の物や人に自発的に働きかけるように促す。言語障害の場合、音声や発音に障害があれば、まず、正しい発音を聞き取り、話す訓練をおこなう。言語発達遅滞の場合、言葉は「教える」のではなく「育てる」気持ちで行う。聴覚に障害がある場合は、補聴器を利用し、発語の訓練を行う。また、単語のみから2語、3語文を作れるように、指導していく。
<まとめ>
一般校の「学校」のイメージを捨て、純粋な教える喜び、個別のニーズにこたえる姿勢が大切である。重複児も、ゆっくりとではあるが成長を続けており、発達を見守り、自立に向けて支援していく必要がある。


(2009年仏教大学教育学部講義レポートより転載)

学習障害の定義、分類、原因、関わり方について2009

学習障害の定義、分類、原因、関わり方について2009
<序論>
学習障害児の研究は、以前よりイギリスにて「ディスレクシア」という概念でとらえられてきてはいるが、まだ原因が不明な点も多く、二次的な障害との区別もつきにくい。日本では、障害別に対応しているが、イギリスでは子どものニーズ別に行っている。他の障害と同じく、早期発見と早期対応が望まれている。
<定義と分類>
学習障害(LD)の概念は、1960年代の初頭にアメリカで発祥した。文部科学省により「基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち、特定のものの習得と使用に著しい困難を示す」と定義されている。
WISC知能検査をもとにした分類によると、言語性能力が低い言語性LD、視知覚や空間認知の障害である非言語性LD、注意や記憶の能力障害のために理解や処理能力に障害のある注意・記憶性LDの3つがある。
また、医学的には、1994年発表のDSM-Ⅳをもとに、狭義の「読み書きそろばん(3R‘s)」の学習障害の他、運動能力やコミュニケーションの障害、さらに広義で自閉性障害などの広汎性発達障害を加える場合もある。このDSM-Ⅳをもとに分類すると、①読字障害②算数障害③書字表出障害④発達性協調運動障害⑤表出性言語障害⑥受容―表出性言語障害⑦音韻障害である。このうち狭義のLDは、①②③と特定不能の障害である。
<原因>
原因は、胎児期や出生後に浴びた化学物質や放射線などによる、中枢神経系の発達障害であるといわれている。情報処理機能不全により、処理能力に偏りがみられ、学習において基礎的能力の習得困難が引き起こされている。具体的には、聴覚認知、視覚認知に障害がみられたり、言語機能、つまり正しく聞き、発言し、言葉の概念をとらえ、文法や文章を認知することに障害がみられる。このため、冗談や比喩を苦手とする。また、短期記憶や作業記憶といった記憶系に問題を持つケースもある。
<LD児へのかかわり方>
情報処理機能不全というのは、情報を1つずつ連続的に処理していったり(継次処理)、あるいは1度に与えられた情報を空間的、全体的に統合していったり(同時処理)することに困難を示すということである。よって、指導内容や教材、学習法に個別の工夫が必要である。
ポイントは「動機付けを高める」「本人の水準にあった課題を見つける」「細分化して、スモールステップで行う」「あせらないで学習できるように速度はゆっくり行う」「処理がスムーズにできるよう、繰り返し学習する」「学習の過程や成果は、即時にフィードバックする」そして、認知特性に応じ、強い能力をいかして弱点を補い、長所を伸ばしてやる学習方法が望まれる。
具体的な指示で簡潔に説明し、社会生活に必要な課題(3R‘s)に焦点を当て、行動のコントロールを学んでコミュニケーション能力を高めていく指導が望ましい。二次障害の原因を作るので、子どもの心を傷つけない指導が必要であると思う。また養育者援助も必要である。
<まとめ>
LD児にとってわかりやすい授業というのは、誰にでもわかりやすいということである。原因で区別するよりも子どものニーズに応じて対応していくことは、現在の教育が抱える学力低下、不登校などの諸問題の解決につながると思う。LD児も向上心を持ちながらうまく学習できないことで悩んでいると言われている。早期からのLDの発見とその対応のマニュアルが望まれる。


(2009年仏教大学教育学部講義レポートより転載)

一般の教育(健常児)と病弱教育(病弱特別支援学校)とを比較2009

<緒論>
病弱教育の対象となるのは、「慢性の呼吸器疾患、腎臓疾患及び神経疾患、悪性新生物その他の疾患の状態が継続して医療又は生活規制を必要とする程度」ではある。実際には子どもがかかる可能性のある、ほとんどの病気が対象であり、「身体虚弱の状態が継続して生活規制を必要とする」子どもといえる。長期入院を強いられ、限られた生活空間の中、直接経験が不足したり偏っている。希望や可能性が広がる健常児とは異なり、病気、障害、学習や将来の不安を抱え、自信喪失や劣等感に陥りがちである。
ア.配慮や支援のあり方
子どもらしく生きられる時間の一つが、学習中であるといえる。まずは教師が病気の基礎知識について深め、子どもがどのような治療を受け、医師から子どもにどのような説明がなされ、本人がどのように自分の病気をとらえているのか、十分に知っておく必要がある。退院後の学校での悩みには、学習についていけない、通院や服薬が続くが他人に服薬を見られたくない、病気について根掘り葉掘り聞かれるのはいや、体育や遠足、運動会といった行事に参加できないなどがあげられる。一方で、注射や捕食の必要な生徒に対し、理解や協力が必要であり、他の生徒が糖尿病やてんかんについて、理解するよう働きかけることが望ましい
悪性腫瘍の子どもは、進行が早いため、対応に工夫が必要である。告知後は、死への不安や恐怖、絶望的な孤独感を味わっていることがあるため、精神ケア、後遺症や家族へのケアなど、医療、教育様々な分野の協力の元、トータルケアが望まれる。
イ.教科等の学習
病弱児にも満6歳からの義務教育を受けさせるべく、治療と並行して、早い時期から教育を行うことが望ましい。運動レベルは疾患により制限されている。道徳の時間には、進んで困難を改善・克服して強く生きようとする意欲、特別活動では少人数クラスの枠にとらわれず、学級や学年を合併するなどして、社会性や豊かな人間性の育成を図る。理科の実験をビデオにとって病室で見せながら説明したり、主治医や栄養士と相談して調理実習のメニューを決める、多重録音を利用し、楽器編成を変化させつつ音楽の合奏を行うなどの工夫。総合学習では「病院」など、福祉や健康をテーマにしたものが調べやすく興味を持てるのではないか。無理は控え且つ制限しすぎず行動させる指導を行う。
<病院や家庭との連携>
病院と学校との打ち合わせの仕方には3通りあり、1つは、学校の教育方針と病院の経営方針とのすり合わせを行うトップ同士。2つめは校務分掌と病棟との間、3つ目は学級担任と受け持ちの看護師である。特に深夜担当の看護師より日々の「申し送り」を聴くことが大切である。ただし、病院側の守秘義務のため、打ち合わせには子どもや家族の了解を得る必要がある。
家族は子どもを病気にしてしまったという罪悪感を抱えていたり、身体的、精神的、経済的負担がかかっている。長期入院の子どもの保護者のよき相談相手に学校がなるよう期待されている。学校行事で連帯を深めたり、行事案内や学級便りで普段の学習の様子を知らせておく。できれば毎日の様子を簡単でいいから伝える。保護者と連絡がとりにくい場合には、地域の児童相談者や民生委員の力を借りて行うとよい。
②個別の指導計画
教育課程は、知的障害を伴わない場合には普通校に順ずる内容であるが、個人差が大きいため、障害の状態や発達段階を的確に把握し、例えば2年越しの計画など、子ども一人ひとりに応じて編成する。病気によって生じた学習の空白を補うような工夫が必要である。
指導計画の第一段階として、「的確な実態把握」。主治医や保護者から得た生徒の病状や障害についての情報や観察を元に第二段階として「指導目標の設定」(PLAN)。実行(DO)。第三段階、「指導内容の検討」(CHECK)を行う。指導の内容は定期的に評価して改善し再度取り組む(ACTION)。
最重度の生徒では、日々のバイタルサインで実態把握する。体温(平熱を知る)、サチュレーションモニタによる心拍数、呼吸数のチェック、チアノーゼ(唇や顔、手足、つめなどが紫色)、てんかん、痙攣をチェックする。寒暖計を設置して参考にするのもよい。
<各教科>
診察・治療・訓練などで生じた学習の空白や遅れを補うように、進度を配慮する。つまり、基礎的、基本的内容を重点的に取り上げ、あるいは下学年の内容を取り入れた指導計画を作成する。
授業時間、学習場所、教材や教具などの制約をふまえつつ、習熟度に応じた指導計画を立てる。病状や体力に応じて「活動量」「活動時間」「休憩の取り方」を適切に定める。
<指導計画の書式例>
指導計画には、「医療活動、服薬、専門医の助言等」「家庭環境等」状況を把握するための資料、「保護者の願い」や「本人の願い」、それに対する「教師の思い」をつづる。比較のため、「学習当初の様子」を記し、「長期の指導目標」に沿った「学期の指導目標」を打ち立てていく。「健康の保持」のため、生活リズムや生活習慣の形成、病状の理解と生活管理にとりくむ。対人関係の基礎、障害に基づく困難を改善克服する意欲の向上をはかり「心理の安定」をさせる。
「健康の保持」「心理的な安定」「身体の動き」「コミュニケーション」といった自立活動の内容を各教科と関連させる。例えば、道徳と体育で健康の維持、体育で心理的な安定と身体の動き、国語でコミュニケーションを扱うなどが考えられる。
また、社会性や経験が乏しいため、総合的な学習の時間では、調査、見学、観察、実験、実習やコンピュータシュミレーション、インターネットでの疑似体験といった「体験的な学習」や「問題解決的な学習」を積極的に取り入れ、多様な学習形態を工夫する必要がある。
また、病気の改善、進行を防止するため生活の自己管理をおこなわせる。病気理解の指導は、プライバシー保護のため、個別指導が望ましい。
<喘息の子どもの指導計画例>
例えば喘息では、周囲の理解が病状にも影響する。呼吸困難の時には治療や看護を優先し、死ぬような息苦しさ、苦痛が緩和されるまで待つ。一律に休憩時間を決め、強制するのは良くないと思われる。体育においては、冷たい空気に触れたり、激しすぎる運動、アレルゲンの吸引は、発作を誘発するため好ましくない。縄跳び、水泳、剣道、体操など、呼吸を整えるリハビリとなるスポーツが望ましい。体力がつけば、制限を緩めて、どんどんチャレンジさせてやるとよいと思う。
<まとめ>
発達障害にも病弱・虚弱児にも共通することであるが、病名で方針をくくらず、子どもや保護者の望む支援を打ち立てることが最も重要であると思われる。


(2009年仏教大学教育学部講義レポートより転載)

病弱・虚弱児の主な疾患における生理・病理2009

病弱・虚弱児の主な疾患における生理・病理2009
<悪性腫瘍>
悪性腫瘍は小児期では小児がんと呼ぶ。小児がんの種類は、急性白血病、悪性リンパ腫、脳腫瘍、神経芽腫、ウィルムス腫瘍、横紋筋肉腫、骨腫瘍がある。
そのなかでも白血病は、白血病細胞が骨髄の中で増殖し、血液細胞の生成を阻害することにより生じる病気で、急性の場合、発熱、顔色不良、出血傾向があり、検査をすると、白血球、赤血球、血小板の3系統のうち、1つ以上の低下が見られる。治療は、抗がん剤を使う化学療法である。慢性骨髄性白血病は、骨髄移植により治療される。
悪性腫瘍の子どもには、精神ケア、後遺症、家族へのケアなど、医療、教育様々な分野の協力の元、トータルケアが望まれる。ターミナルケアは、進行が早いため、工夫が必要である。
<循環器疾患>
循環器疾患は、心臓の構造に生まれつき異常のある「先天性心疾患」と、病気による心臓後遺症である「後天性心疾患」とがある。
先天性心疾のうち、病弱・虚弱児教育の対象となるのは、現在の医療水準では手術しても修復しきれない疾患と、手術のできない疾患があげられる。例えば、心内膜床欠損では、心房の隔離が不十分のために逆流が生じる。この他、体循環が体循環で、肺循環が肺循環で完結してしまう、完全大血管転位症などがある。
学校では、運動レベルがAからEまでの5段階にて、運動レベルが定められており、体育の授業の参考にされている。
<腎疾患>
急性腎炎は多くが溶連菌感染後、急性糸球体腎炎である。まれに、細菌や水痘ウィルスムによる場合もある。治療は安静と食事療法が基本である。
慢性腎炎の定義は、WHOでは「蛋白質、血尿、高血圧を呈し、しばしば無症状のまま数年から数十年にわたって遷延し、徐々に腎機能障害が進行する病態」である。治療は、むくみや血圧、腎機能、尿蛋白の程度に応じて異なっており、適切な時期に透析を導入すべきである。腎不全の場合は、移植が望ましい。症状により管理区分が5段階あり、在宅、教室、軽、中程度運動、普通運動と徐々に制限が少なくなっていき、回復期には制限はない。
その他の腎疾患として、低蛋白血症とむくみを呈するネフローゼ症候群、先天性腎尿路異常、塩分制限や低蛋白食療法が必要な慢性腎不全などがある。
<気管支喘息>
気管支の狭窄が、下気道の場合、呼気性喘鳴、上気道では吸気性喘鳴がきかれる。アレルギー喘息の場合は、原因抗原や誘発因子を除去する。気管支拡張薬により、気道を確保する。大発作では、喘息死の危険もあるため、発作の程度を判断し、様子を見るか救急車で病院に運ぶか決める。
<糖尿病・内分泌疾患>
糖尿病はインスリンの作用不足、または分泌低下が原因で、高血糖となる疾患。1型から4型まであり、インスリンを分泌している膵臓のランゲルハンス島β細胞が破壊される1型、インスリン抵抗性と分泌不全が原因の2型、その他(3型)、妊娠糖尿病(4型)に分析。小児糖尿病は2型が1型の3倍と多い。1型は生涯続く病気であるが、2型は生活改善でよくなる。治療法には、インスリンの皮下注や、食事療法、運動療法などがある。学校では注射や捕食の必要な生徒への理解や協力が必要であり、他の生徒が理解するよう働きかけることが望ましい。
内分泌疾患には、下垂体のGH(成長ホルモン)分泌不全低身長、甲状腺の機能亢進症と機能低下症(クレチン症、橋本病)、副甲状腺の機能亢進症と機能低下症、副腎の「先天性副腎皮質過形成症」「クッシング症候群」、性腺の「思春期早発症」「思春期遅発症」などがある。低身長の子どもは、劣等感を抱き、自尊心が傷つきやすく、やる気が損なわれやすいため、注意が必要である。
膠原病とは、自己免疫反応による炎症が生じる病気である。若年性突発性関節炎(リウマチ)は、発疹や発熱を繰り返す。全身性エリテマトーデスでは、症状が多彩で広範囲であり、光線過敏をひきおこす。その他に、皮膚筋炎、多発性筋炎、全身性硬化症、高安症、ベーチェット病などがある。
<てんかん・神経疾患>
精神疾患は心の病気であるが、神経疾患は純粋に神経経路の疾患により、手足が麻痺したり痛みを感じなくなる病気である。
てんかんとは、慢性の脳の疾患で、大脳ニューロンが発作性の過剰放電を繰り返し、それに伴って、異常な反応(てんかん発作)を繰り返すものであり、WHO(世界保健機構)は、「脳腫瘍などの、脳占拠病変や系統的代謝障害による疾患は除外する」としている。
原因には、遺伝による「特発性」、胎生期および周産期の脳疾患(脳炎や脳症、脳奇形、脳血管障害、髄膜炎)、脳外傷などによる「症候性」、原因不明の「潜在性」とがある。
抗てんかん薬は、てんかん発作の閾値を下げ、発作を起こりにくくする(抑制率50~80%)が、最低でも2年間は飲む必要がある。外科治療では、大脳皮質の特定部位の切除、または表皮の5mmごとの切り込みを行う。
生徒がてんかんの発作を教室で起こした場合は、発作中に頭部を保護する他、発作を正確に観察するなど、冷静な対応が求められている。
てんかんの子どもには、基本的には他の子に対するのと同じように扱い、水泳中など特別な場合を除き、命に危険が直ちに及ぶことはないので、落ち着いて対処する。ただし、5分以内に痙攣がとまらなければ、救急車を呼ぶ。周囲の子どもには、「痙攣の発作で、まもなく元に戻って元気になるから心配しなくていいよ」と伝える。急な発作により、周囲の子どもが偏見を持ったり、あるいは怖がらないような配慮が求められると思う。
発作には痙攣性のものと、非痙攣性(欠神発作、脱力発作)のもの、全身発作から部分の発作のものなど、様々な症状が見られる。
そのほか、多発性硬化症、重症筋無力症なども、神経疾患である。
<まとめ>
教育現場では、医療機関との連携の下、ひとりひとりの子どもについて、どこまで運動が許可され、どこまで活動範囲を広げてよいか、あるいは、どんな治療や配慮が必要か、把握して指導計画を立てていくべきである。


(2009年仏教大学教育学部講義レポートより転載)