2011年8月15日月曜日

肢体不自由児教育における「自立活動」について2009

肢体不自由児教育における「自立活動」について2009
<序論>
障害児教育は、1980年のWHOの分類によると『四肢が不自由であるという機能障害を改善するというのではなく、生活や学習にともなう能力障害を改善すること』と考えることができる。さらに、2001年のICFによると、人間の生活機能(心身機能や身体構造、生活、人生)は、「健康状態」「環境因子」「個人因子」との相互関係であり、『支援により生活環境を改善して社会的不利益を減らすこと』と考えることができる。
かつて、肢体不自由児のための学校は無く、体操の時間は見学し、普通学級で授業を受けていた。昭和40年代に脳性麻痺児、昭和50年代以降に脳性疾患の増加があり、昭和54年より、重度・重複障害児を含め、肢体不自由児の教育は義務化された。MRIや遺伝子診断の発達、予防接種、酵素やホルモンの投与などの予防や治療により、減少している病種もあるが、医療ケアの必要な重度・重複障害児は増加している。
こうして盲・聾学校よりも歴史の浅い養護学校にて、今日あらゆる支援学校や一般校の参考となる『脳損傷に起因する諸特性をふまえた指導』法が、培われてきた。インクルージョンの理念より、世界は今、全ての子供がありとあらゆる分野でチャンスや結果が平等に訪れる、人権に裏打ちされた「社会的公平さ」が求められている。養護・訓練は、生活重視の自立活動となり、生きる力をはぐくむ教育が求められている。
<脳性麻痺児の定義と特性>
在学児童生徒の45%を占める「脳性麻痺」の狭義の定義は、「受胎から新生児期までに生じた脳の非進行性病変に基づく永続的なしかし変化しうる運動および姿勢の異常」である。運動機能障害他の合併障害を持ちやすく、麻痺の原因が未熟児による場合は学習障害である「視知覚認知障害」、また原因が低酸素脳症の場合、筋の緊張が安定せず、座位が困難、嚥下や構音の障害が見られる。これらの障害の結果、座位が取れず、手で物をつかんだり物を見下ろしたり探索といった、様々な体験が乳幼児期に不足する。こうして試行錯誤や推理する経験が不足し、認知やコミュニケーションの二次的障害を生じる。そして、発達の遅れより学力や社会性の低下につながりやすい。
<脳性麻痺児の指導計画の立て方>
知的障害がない軽度の肢体不自由児の場合、周囲の自立の期待は大きい。しかし、特別支援教育の自立活動では、たとえ重度の障害があろうと、少しでも能力が改善し生活しやすくなるよう、肢体不自由児の希望に沿った、個別の支援計画をたてる事、自分の事を自分でしたいという自発的な動機付けが求められている。
指導と評価の一体化を進めるPlan-Do-Seeのシステムは、以下のように行う。まず初めに計画を立てるには、脳性疾患(脳性麻痺を含む)にかかわる医学的、心理的な基礎知識を得て、学習特性を理解する。そして一人ひとりの障害の状態及びニーズの把握を行い、ニーズに応じて個別の支援計画を立てる。長田・安藤のアウトラインによると、1年間の指導期間であっても、一人ひとりの成長に合わせ、小学部から高等部までの長期的な展望に立った個別計画をまず作成する。各教科や自立活動まで含めた、学校の教育活動全体を見通した指導計画を作成する。病院のカルテのような、誰が見てもその子の経過や現状が分かるような個別のカードを作成する。担任が以前の園や学校からの資料、保護者や多くの教師の情報を収集する。
これらのカードや会議を元に、各担当者が授業計画を立てる。TTを利用し、子どもによって必要な教材を選び、教科を再編し、限られた授業時間内で何を重点的に学ぶのかを工夫する。その子に応じた学び方(スタイル)が決まったら、次に評価の基準を決め、どの程度到達したか個別に明確に記す。観点はぼやけないよう1授業につき1~2つにしぼり、簡便化する。評価が出たら、多くの教員、保護者の協力のもと、授業計画を再検討し、新たな計画を元に進めていく。
<自立活動の内容>
自立活動も前述のように、長期計画に基づいて1年間の活動計画を立てる。将来、社会人として自立していくのに必要な生きる力を身につけるため、主体性や社会性を培い、生活を改善していく。
自分にとって何が必要か、課題を見つけて工夫してこなすことも自立活動である。ベッドから車椅子へ、車椅子から杖歩行へ、アスリートのように感覚を鍛え、筋肉をつけ、ステップを踏んでトレーニングを積む。あるいは歯磨きが課題かもしれない。電車やバスに乗る練習、スーパーやコンビニの利用かもしれない。指一本で動かせる車椅子やパソコンがある時代である。改造自動車のマイカーで通勤し、パソコンで仕事することも可能になってきている。時間をかけたらできることを、他人に頼らずにやってみるというチャレンジ精神を育てることは、大切である。
授業案として以下の易、中、難の具体例を挙げる。
◎体でじゃんけん……できる動作3つでグーチョキパーを決めて遊ぶ。係や順番を決めるときに利用しても良い。感覚、筋力を鍛え、体をしなやかにする。
◎トランシーバーで探検ごっこ……指令本部と探検隊にわかれ、無線で連絡を取りながら、暗号を集めて解く。道順を分かりやすく伝える、相手の言葉から地図を想像する、コミュニケーションや空間認識の訓練。校外を含めると、難易度が上がる。
◎買い物の仕方……公共機関を利用してスーパーに行き、メモを頼りに店内を捜し、時には店員に尋ね、レジで支払いをして帰る。仮に自分一人でできなくても、班で協力し合う体験、社会の仕組みを考える大切な体験になる。
<自立活動の注意点、今後の課題>
自立活動を進める上で気をつけないといけないのは、障害の悪化と安全である。長い目で見てその人の利益になるようにしなければならない。例えば杖で歩く訓練は重要であるが、無理な姿勢で歩くことで生じる、関節への負担は大きい。首や腰を痛め、早く老化する可能性がある。何が何でも歩くというのではなく、時には車椅子や公共機関を利用する、エレベータやエスカレータを利用するなど、自分の行動の限界を自覚し、無理をしすぎないことも、自立には必要である。
また、電動車椅子は、障害物にも凶器にもなり得る。自分や他人の命を守るために、町に出たときのマナーやルールはきちんと理解しなければならない。例えば、歩道の中央をスピードを出して歩く、横断するときによく見える車道に出て待機するなど、歩行者や自転車、バイクや自動車の通行を妨げるのは危険である。歩道の歩き方、道の横断の仕方は、社会に出てからやみくもに場数を踏んで自然に覚えるのではなく、授業で教師がきちんと説明してやるほうが良い。
知り合いで、若い女性に介護されていた50代の男性が、一人暮らし始めて同世代の飲み友達を見つけた後、おねえ言葉から普通の“おじさん”へ変身した。施設にいては限界がある。自立は、一人暮らしし社会にでて徐々に、真に自立するものであると感じた。卒業後に、速やかに自立できる支援が学校に望まれる。


(2009年仏教大学教育学部講義レポートより転載)

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