<序論>
『視覚障害教育に携わる方のために』の第一章によると、視覚障害児は、伝染病や中毒、腫瘍、生まれつきまたは中途失明等により、「視力障害」「視野障害」及び「暗順応障害」が生じ、両眼の矯正視力が学習の上で支障をきたす子どもたちのことである。
視覚障害を持つ児童生徒は、大きく二つに分けられる。点字での学習が必要な「盲児」と、普通の文字を活用する「弱視児」である。盲児と弱視児とでは、指導方法は大きく異なり、同じ弱視児でも、原因が異なれば、一人一人の見え方は大きな個人差がある。近年では、視覚障害に加えて、重度の発達遅滞や、肢体不自由を伴う「重複障害児」も増加している。
世界の流れは、2つの方向に進んでいる。人権の視点より、機会や結果が平等になるよう、教育の社会的公平さが求められている「インクルージョン(包括的な統合教育)」と、個々のニーズに応じた特別支援を進める方向である。日本でも、その生徒にふさわしいカリキュラムが検討されており、知的障害を伴わない視覚障害児には一斉授業、重複障害児には一対一の授業やティームティーチングを行っている。
視覚障害児の支援は、小中高等部だけでなく、第8章にあるように、乳幼児からの早期支援が求められている。両親の心を支え、子どもの心身の発達が遅れないよう、早期より適切な支援を行うことが、その後の教育の効果を高める。一貫性のある長期の個々の支援を続けるには、高度の専門性がかかせないであろう。
<視覚障害児の指導法>
視覚障害児は、第2章p37のように視力障害の程度、失明の時期、入学の年齢、教育歴が一人一人異なり、知的障害等を伴う重複障害児も増加傾向にあり、指導法も一様ではない。教育課程の基準には、弾力性を持たせる必要がある。
視覚障害児の教科のカリキュラムは、知的障害のない場合、第6章p142のように、一般校の学習指導要領に基づき、各教科を学年別に、1年間の内容を可能な限り全て教えることになっている。ただし、障害にあわせて工夫された教材や教具を使用し、指導にはいくつかの留意点も必要である。自立活動のカリキュラムは、教科と違いメニュー方式で、学年の別は無く、自立に必要なさまざまな要素から、一人一人に応じた内容を抜き出して、カリキュラムを設定している。知的障害を伴う重複障害児には、知的障害養護学校の教科を設定する。
視覚障害児の具体的な指導法は、児童生徒が、「盲児」であるのか、それとも「弱視児」であるのかによって、大まかに分けることができる。第1章によると、盲児とは、「点字を常用し、聴覚と触覚を活用して学ぶ児童生徒」である。弱視児とは、「視力が0.3未満のもののうち、普通の文字を活用するなど、主として視覚による学習が可能な者」である。弱視の要因は、第5章によると、①ピントが合わず、屈折異常がメガネなどで矯正できない。②角膜、水晶体、硝子体などが混濁し、乱反射している。③虹彩欠損やぶどう膜炎等の眼疾。④求心性視野狭窄や網膜色素変性による暗順応の悪さ。⑤その他眼球の不随意振とう、不規則狭窄、暗点や、斜視、遠視、片目のみの使用、左右の視力の極端な差などが原因として挙げられる(『障害児の生理と病理』)。
<弱視児の指導法>
弱視児を教えるとき、第5章のように、教員はコントラストの強い色彩で板書し、適切な学用品を使用しているかどうか気をつけてやらねばならない。ノートは、線の太いものが良く、鉛筆は濃いものの方が良い。また、疲労しない工夫として、書見台、高めの机、光量を調節するブラインドやカーテンがあげられる。パソコンの画面拡大ソフトを活用したりするのもよい。
弱視の児童の中には、操作活動を重視した、物を見る訓練から必要な場合がある。見るという楽しさを体験したことのない児童から意欲を引き出し、力相応に見えるように導く。それから、多くのものから特定のものに着目し、やがてまとまりのある図形のグループ化が可能になり、物の属性の認知学習へと入る。物を形や大きさに着目し、比較、分類、順に並べる、描く、つくる、実験する、といった操作活動をいっそう進め、ついには予測能力の向上に至る。豊かな概念やイメージの形成まで、適切なステップで進ませる専門性が必要である。
<盲児の指導法>
盲児を教えるとき、第7章の製図用のコンパスのように、晴眼児用の器具を利用しても良いが、工夫された専用の教材や器具が用意されている。パソコンのスクリーンリーダーの他、レーズライターや立体コピーといった凸図の作成機、サーモフォームを使った地図、触る絵本、盲人用地球儀、文具、温度計というものもある。こうした器具を使い、第5章のように盲児を指導していく。
点字を指導するには、まず、読み取るための両指の触覚訓練が必要である。また、話し言葉を意識して書き言葉に変える作業が必要である。
空間概念は、まず上下・左右・前後の6方向を認知し、それから数学で習うような立体図形を学習していく。図形が描けるようになったら、歩行地図を理解し、作成していく。建物の1階と2階、山や橋、トンネルといった触れない空間認識を学ぶためには、模型が必要である。
自立を意識するなら、漢字の習得も重要である。点字と日本語のワープロ変換ソフトを駆使するためにも、漢字の意味や読み、部首の知識が必要である。さらに、平仮名、片仮名、漢字、数字、アルファベット交じりの文章に対応できる知識が必要である。
運動は、模倣が難しく、安全面からなかなか個人で習得しにくい分野である。2人羽織のように後ろから手を添えて動作を指導し、全力で走ったり投げたり跳んだりする体験をし、正しい歩行動作の習得も望ましい。
指導する上で、盲児に(弱視児も)いえるのは、できるだけあらかじめ、どこで何をするか学習空間を認識させ、授業の手順をつかませることである。また、見えないだけに言葉からどれほど理解できるか不透明である。話だけで理科や社会を教えがちであるが、やはり、実物や模型、標本類を利用すべきである。
第六章によると、「養護・訓練」は今では、自立活動へと平成11年より名称変更されている。教員主体の教え込みではなく、1対1のメリットである個別指導を活かし、歩行、日常生活動作、文字処理の訓練により、日常や学習活動で後天的に制限されている障害を改善していく。視覚障害児は生活に必要な、料理、裁縫ばかりでなく、仕事をし、外を出歩くのに必要な、トイレや食事のマナー、身だしなみ、音(反響音)による状況や空間の認識、お金の見分け方など、多くのことを効率よく覚える必要がある。経験不足を補うには、情報を整理する能力と、核になる本物の経験が必要だからである。
<まとめ>
初心者をプロに育成するかのようなノウハウの数々より、かつての特殊教育は、特別高度な専門性を持つ教員による教育であると思われる。特別支援に変わっても、個人差の大きい視覚障害教育にて、更なる高い専門性が望まれる。
(2009年仏教大学教育学部講義レポートより転載)
(2009年仏教大学教育学部講義レポートより転載)
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