<緒論>
病弱教育の対象となるのは、「慢性の呼吸器疾患、腎臓疾患及び神経疾患、悪性新生物その他の疾患の状態が継続して医療又は生活規制を必要とする程度」ではある。実際には子どもがかかる可能性のある、ほとんどの病気が対象であり、「身体虚弱の状態が継続して生活規制を必要とする」子どもといえる。長期入院を強いられ、限られた生活空間の中、直接経験が不足したり偏っている。希望や可能性が広がる健常児とは異なり、病気、障害、学習や将来の不安を抱え、自信喪失や劣等感に陥りがちである。
ア.配慮や支援のあり方
子どもらしく生きられる時間の一つが、学習中であるといえる。まずは教師が病気の基礎知識について深め、子どもがどのような治療を受け、医師から子どもにどのような説明がなされ、本人がどのように自分の病気をとらえているのか、十分に知っておく必要がある。退院後の学校での悩みには、学習についていけない、通院や服薬が続くが他人に服薬を見られたくない、病気について根掘り葉掘り聞かれるのはいや、体育や遠足、運動会といった行事に参加できないなどがあげられる。一方で、注射や捕食の必要な生徒に対し、理解や協力が必要であり、他の生徒が糖尿病やてんかんについて、理解するよう働きかけることが望ましい。
悪性腫瘍の子どもは、進行が早いため、対応に工夫が必要である。告知後は、死への不安や恐怖、絶望的な孤独感を味わっていることがあるため、精神ケア、後遺症や家族へのケアなど、医療、教育様々な分野の協力の元、トータルケアが望まれる。
イ.教科等の学習
病弱児にも満6歳からの義務教育を受けさせるべく、治療と並行して、早い時期から教育を行うことが望ましい。運動レベルは疾患により制限されている。道徳の時間には、進んで困難を改善・克服して強く生きようとする意欲、特別活動では少人数クラスの枠にとらわれず、学級や学年を合併するなどして、社会性や豊かな人間性の育成を図る。理科の実験をビデオにとって病室で見せながら説明したり、主治医や栄養士と相談して調理実習のメニューを決める、多重録音を利用し、楽器編成を変化させつつ音楽の合奏を行うなどの工夫。総合学習では「病院」など、福祉や健康をテーマにしたものが調べやすく興味を持てるのではないか。無理は控え且つ制限しすぎず行動させる指導を行う。
<病院や家庭との連携>
病院と学校との打ち合わせの仕方には3通りあり、1つは、学校の教育方針と病院の経営方針とのすり合わせを行うトップ同士。2つめは校務分掌と病棟との間、3つ目は学級担任と受け持ちの看護師である。特に深夜担当の看護師より日々の「申し送り」を聴くことが大切である。ただし、病院側の守秘義務のため、打ち合わせには子どもや家族の了解を得る必要がある。
家族は子どもを病気にしてしまったという罪悪感を抱えていたり、身体的、精神的、経済的負担がかかっている。長期入院の子どもの保護者のよき相談相手に学校がなるよう期待されている。学校行事で連帯を深めたり、行事案内や学級便りで普段の学習の様子を知らせておく。できれば毎日の様子を簡単でいいから伝える。保護者と連絡がとりにくい場合には、地域の児童相談者や民生委員の力を借りて行うとよい。
②個別の指導計画
教育課程は、知的障害を伴わない場合には普通校に順ずる内容であるが、個人差が大きいため、障害の状態や発達段階を的確に把握し、例えば2年越しの計画など、子ども一人ひとりに応じて編成する。病気によって生じた学習の空白を補うような工夫が必要である。
指導計画の第一段階として、「的確な実態把握」。主治医や保護者から得た生徒の病状や障害についての情報や観察を元に第二段階として「指導目標の設定」(PLAN)。実行(DO)。第三段階、「指導内容の検討」(CHECK)を行う。指導の内容は定期的に評価して改善し再度取り組む(ACTION)。
最重度の生徒では、日々のバイタルサインで実態把握する。体温(平熱を知る)、サチュレーションモニタによる心拍数、呼吸数のチェック、チアノーゼ(唇や顔、手足、つめなどが紫色)、てんかん、痙攣をチェックする。寒暖計を設置して参考にするのもよい。
<各教科>
診察・治療・訓練などで生じた学習の空白や遅れを補うように、進度を配慮する。つまり、基礎的、基本的内容を重点的に取り上げ、あるいは下学年の内容を取り入れた指導計画を作成する。
授業時間、学習場所、教材や教具などの制約をふまえつつ、習熟度に応じた指導計画を立てる。病状や体力に応じて「活動量」「活動時間」「休憩の取り方」を適切に定める。
<指導計画の書式例>
指導計画には、「医療活動、服薬、専門医の助言等」「家庭環境等」状況を把握するための資料、「保護者の願い」や「本人の願い」、それに対する「教師の思い」をつづる。比較のため、「学習当初の様子」を記し、「長期の指導目標」に沿った「学期の指導目標」を打ち立てていく。「健康の保持」のため、生活リズムや生活習慣の形成、病状の理解と生活管理にとりくむ。対人関係の基礎、障害に基づく困難を改善克服する意欲の向上をはかり「心理の安定」をさせる。
「健康の保持」「心理的な安定」「身体の動き」「コミュニケーション」といった自立活動の内容を各教科と関連させる。例えば、道徳と体育で健康の維持、体育で心理的な安定と身体の動き、国語でコミュニケーションを扱うなどが考えられる。
また、社会性や経験が乏しいため、総合的な学習の時間では、調査、見学、観察、実験、実習やコンピュータシュミレーション、インターネットでの疑似体験といった「体験的な学習」や「問題解決的な学習」を積極的に取り入れ、多様な学習形態を工夫する必要がある。
また、病気の改善、進行を防止するため生活の自己管理をおこなわせる。病気理解の指導は、プライバシー保護のため、個別指導が望ましい。
<喘息の子どもの指導計画例>
例えば喘息では、周囲の理解が病状にも影響する。呼吸困難の時には治療や看護を優先し、死ぬような息苦しさ、苦痛が緩和されるまで待つ。一律に休憩時間を決め、強制するのは良くないと思われる。体育においては、冷たい空気に触れたり、激しすぎる運動、アレルゲンの吸引は、発作を誘発するため好ましくない。縄跳び、水泳、剣道、体操など、呼吸を整えるリハビリとなるスポーツが望ましい。体力がつけば、制限を緩めて、どんどんチャレンジさせてやるとよいと思う。
<まとめ>
発達障害にも病弱・虚弱児にも共通することであるが、病名で方針をくくらず、子どもや保護者の望む支援を打ち立てることが最も重要であると思われる。
(2009年仏教大学教育学部講義レポートより転載)
(2009年仏教大学教育学部講義レポートより転載)
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