<序論>
知的障害および発達障害の定義は、医学上、教育上、行政上それぞれにおいて異なっており、各国で異なっている。また、教育的・文化的環境に恵まれない場合にも、精神発達は遅滞するといわれている。
<知的障害の定義>
アメリカ精神遅滞学会AAMDでは、「全般的知的機能が有意(危険率5%未満)に低く、適応行動の障害を伴っており、かつ18歳以下に現れる」とし、脳の器質的障害については定義に含めず、3つの領域のうちの2つ以上が制約を受ける“特定の機能障害”としてとらえられている。3つの領域のうち1つは、言語、読み書き、金銭の概念、自己管理といった概念スキル、2つ目は対人関係、責任、自尊心、規律を守るといった社会的スキル、3つ目は、日常生活活動、職業スキル、安全な環境の維持と言った実用スキルである。現在の日本では、知的障害者を“発達の遅れ”とし、脳髄に何らかの障害(器質的障害)を持つことが要件に挙げられている。
医学上で知的障害は、18歳以下の発達期に起こり、認知や言語に関わる知的機能の発達に明らかな遅れがあり、適応行動の困難性―他人との意思の交換の困難、日常生活や社会生活などの行動が育っていない―を伴う状態とされている。
<発達障害の定義>
発達障害があるからといって必ずしも知的障害があるわけではない。発達障害と知的障害の違いは、知的障害は広く発達障害の中に含まれている。そして、発達障害は典型的な場合は診断が容易ではあるが、軽度の場合、明確に境界を引くことが困難であり、早期に診断するほど、擬陽性の率が高くなる。
発達障害には狭義と広義の定義がある。狭義では、3つの特徴を有する障害である。まず、年代が青年期や老年期ではなく、発達期に固有の障害であり、発症が常に乳児期か児童期であること、そして中枢神経系の生物学的成熟に強く関係する、機能の発達の障害あるいは遅れであること、3つめは多くの精神障害を特徴付ける傾向のある、軽快や再発のない安定した経過がみられることである。
ICD-10で定義されているのは、特異的発達障害と、広汎性発達障害(広義の発達障害)である。この中には、精神遅滞や注意欠陥/多動性障害(ADHD)なども含まれる。
<広汎性発達障害の定義>
さらに発達障害の定義を拡大すると、ICD-10に限定される特異的発達障害と広汎性発達障害ばかりではなく、視覚や聴覚などの感覚障害、身体の障害、心と行動の障害による発達の遅滞も含まれる。身体の障害では、脳性麻痺、重症心身障害、てんかんを含んでいる。
広汎性発達障害とは、典型的な自閉症に限らず、自閉症的な特徴を持つ状態の総称である。また、広汎性発達障害には、自閉症スペクトラムに含まれるものと含まれないものとがある。自閉症スペクトラムに含まれるのは、自閉性障害とアスペルガー障害などである。含まれないものとは、主に女児にみられるレット障害と小児崩壊性障害である。
<自閉症の定義>
自閉症スペクトラムには、自閉性障害(小児自閉症)、アスペルガー障害、特定不能の広汎性発達障害、があげられる。そのうちで、自閉性障害ではあっても、IQが70以上の場合、高機能自閉症と呼んでいる。つまり、高機能自閉症とは、「3歳くらいまでに現れ、他人との社会的関係の形成の困難さ、言葉の発達の遅れ、興味関心が狭く、特定のものにこだわることを特徴とする行動障害である自閉症のうち、知的発達に遅れを伴わないもの」を言う。
<LDの定義>
学習障害(LD)とは「基本的には、全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち、特定のものの習得と使用に著しい困難を示す、様々な状態」と定義されている。
<ADHDの定義>
しゃべり過ぎたりそわそわしたり、集中できなくて聞き漏らしたり忘れたりして失敗する子どもの総称である。中枢神経系に何らかの要因による機能不全が7歳以前に現れ、その状態が継続している。「年齢あるいは発達に不釣合いな注意力、及び/又は衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に師匠をきたすもの」がADHDと定義されている。
<広汎性発達障害の対応>
大脳皮質のうち前頭連合野の部分に障害があると、脳内の信号のやり取りに支障が生じ、ADHDやLD、広汎性発達性障害PDDを引き起こすと言われている。大脳皮質以外の、大脳辺縁系のうち、扁桃体に障害があると、PDDを起こすと考えられている。これらの障害は、神経伝達物質の過剰、又は過少によるものと考えられており、薬物による治療も近年検討されている。
自閉症では、話し言葉が出てこないか言葉が遅れることがあり、興味や活動が限局的であったり、目と目で見つめあったり表情身振り豊かに話すことができないといった特徴がある。子どもの認知・情緒の発達を促す、自分で行動のコントロールができるように、ここのスキルを獲得する、異常行動を抑制する、といった3つの働きかけが必要である。TEACCHプログラムの理念やロヴァス法にて、効果が見られている。
LDではあらかじめ、短期記憶や空間認識などが他の子どもより低いなど、何らかの中枢神経系の機能障害に基づく認知機能の特異的な障害である。「黒板への書き方」「黒板の写し方」「発表」「宿題」「自主学習」などに配慮を行う。
ADHDでは、集中が困難であるため「気を散らす刺激を減らす」「易しい課題から始める」、注意力障害のため「課題は飽きる前に、易しい課題で終わらせる」「大切なことをはっきり示す」、情緒障害のため「余分な刺激を与えたり、余分なお説教をしない」「教卓の前に座らせる」とよい。ADHDの父親の25%がADHDであり、遺伝によることが多く、叱っても効果は薄い(努力しても報われない人間不信による、二次的症状が強いように思われる)。対応には薬物投与が効果的といわれている。
発達障害児を指導する際には、まず、アセスメントが大切であり、子どもが何の支援を必要としているか、不要としているか、気持ちを汲むことが大切である。それから、対処の優先順位を考えることも大切である。例えば、自分や他人を傷つける行為は、優先的に第一に対応を考える。次に、家庭に影響を与える、日常生活の問題行動を優先させる。最後に、集団や社会にて生じる問題行動での対処を考える。
<まとめ>
発達障害は、早期に正しく対応するほど教育の効果があり、細かい分類が必ずしも対処の仕方の分類と一致するわけではなく、一人ひとりのニーズに合った対応を考えていくことが望ましい。
(2009年仏教大学教育学部講義レポートより転載)
(2009年仏教大学教育学部講義レポートより転載)
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