①<これまでの現状認識>
『これからの障害児教育』によると、かつての日本では、障害を持つ子どもは軍国主義教育などにより、「教育対象外」として位置づけられ、「就学猶予・免除」規定などにより、公教育から締め出されてきた。
西洋において、キリスト教の慈善活動の一環としてスタートした障害児教育は、より組織化されて「ろう学校」「盲学校」となり、フランスのセガンにより、生理学の原理を応用した重度知的障害児教育が築かれた。
明治の日本でもまた、障害者は慈善の対象であったが、盲・ろう学校の歴史は古く、早くから「点字指導・歩行訓練」「聴能訓練」等が行われていた。その他の障害児は、学力低下への対策として、特殊学級に集められた。
戦後に、障害児教育は、『生活の質』『社会的公正』という観点から、人権として捉える考え方が日本にも伝わった。デンマークの「知的障害者の生活を可能な限り通常(ノーマル)の生活状態に近づけるようにする」“ノーマライゼーション”から派生した、アメリカの“メインストリーミング”。「全ての子供のあらゆるニーズに答えていく」イギリスの“インテグレーション”から派生した“インクルージョン”の理念である。それを機に、新たに教育的な配慮の必要な児童生徒が認識され、学習指導要領が大きく改訂されている。昭和46年には、弱視児や難聴児、脳性まひ児の増加と重複児の増加を受け、障害種別に対応した教育目標が設定された。そして目標実現のために、新しく「養護・訓練」が設けられた(H11年には「自立活動」に改められた)。さらにその後、通学できない子どもには訪問教育で対応するなどの対策が取られるようになった。
H15年、文部科学省は次のように、大きく5つの課題が「特殊教育」にて「現状認識」されているとした。
(1)特殊学校や特殊学級の在籍者比率が増加し、(2)重度・重複児が増加し、通常学級におけるLD児、ADHD児等、多様化、複雑化しているため、(3)教育の専門性の向上が望まれるが、専門家や関連機関との連帯不足している。また、(4)インテグレーション(統合教育)へ転換し、(5)新たな体制やシステム構築する必要があるとしている。
<基本的方向性>
あらゆる問題を抱えた子どもを含め、全ての子供について、社会のありとあらゆるところで当たり前の平等、差異や個性の尊重を認める『インクルージョン』の理念へと転換するため、『基本的方向性』が、同じくH15年、文部科学省により公表されている。かつては、障害の程度等に応じ、障害児を隔離・保護した特別の場で指導を行う「特殊教育」であった。健常児への働きかけといかに同じにしていくか、ということを大切にし、障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じて適切な教育的支援を行う「特別支援教育」への転換を図る。この公表に伴い、盲、ろう、養護学校、養護学級から、特別支援学校、特別支援教室という名称に変更して、これまでの障害児教育の支援内容を改正していく。
<特別支援教育の定義>
文部科学省による特別支援教育の定義は、以下のようである。「特別支援教育とは、従来の特殊教育の対象の障害だけではない。LD、ADHD、高機能自閉症を含めて障害のある児童生徒の自立や社会参加に向けて、その一人ひとりの教育的ニーズを把握して、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善、又は克服するために、適切な教育や指導を通じて必要な支援を行うものである。」
②<自立活動の教育目標>
平成11年に学習指導要領が改訂され、障害者にとって受け身になりがちな「養護・訓練」が、障害者自身が主体的・積極的に取り組むべき教育活動である「自立活動」へと名称が変えられた。幼児児童生徒が、それぞれの障害の状態や発達段階などに応じて、主体的に自己の力を可能な限り発揮し、より良く生きていこうとする活動であるとされている。
この教育目標は、全ての幼児、小学校、中学校、高等学校の教育目標と同じであるが、「障害に基づく種々の困難を改善・克服するために必要な態度や、習慣などを育て、心身の調和的発達の基礎を培うこと」「児童及び生徒が困難を改善・克服するために必要な知識、技能、態度及び習慣を養うこと」という文面が付加されている点が異なっている。こうして幼稚園や保育所、及び関連機関と連帯しつつ、障害者の自立と社会参加を支援していくことが、「自立活動」の目標である。
<「教育課程編成の一般方針」>
『これからの障害児教育』によると、とりわけ知的障害児教育においては、常に自立活動と各教科との関連が大切であると、強調されている。平成11年に改定された学習指導要領は以下のように述べている。
「学校における自立活動の指導は、障害に基づく種々の困難を改善・克服し、自立し社会参加する資質を養うため、学校の教育活動全体を通じて適切に行うものとする……ここの児童又は生徒の障害の状態や発達段階等を的確に把握して、適切な指導計画の下に行うよう配慮しなければならない。」
また、平成17年度の中央審議会答申によると、障害がある子どもへの対応については、幼児段階での早期発見・早期支援が重要であることから、幼児段階における特別支援教育の推進のあり方を検討する必要性、障害者の自立と社会参加を支援する観点から、就労や就学支援を図る重要性が述べられている。真の意味での、「一人ひとりの子ども」の発達段階や発達特性に応じた教育課程の編成が求められているのである(『これからの障害児教育』より)。
<自立活動の内容>
子どもの立場に立ち、できるだけ早い時期から発達的視点より指導するために、指導内容は幼稚部から高等部まで同一であり、5つの柱から成り立っている(『これからの障害児教育』より)。(1)生活習慣を形成し、病気や損傷を理解し健康状態を維持、改善し、 (2)対人関係をうまく築き、状況の変化に対応するなど、心理的に安定すること。(3)周囲の状況を把握し、認知や行動の手がかりとなる概念を形成すること。(4)日常の姿勢や動作、移動能力を高め(歩行、乗り物の訓練)、作業を円滑に遂行すること。そして(5)コミュニケーション能力を高めること(パソコン、口話、手話など)。
こうして弱点を克服し、かつ長所をさらに伸ばし、指導方法を個々の児童または生徒について創意工夫し、他の教師や専門家と協力していくことが望ましいとされている(『これからの障害児教育』より)。効果的・効率的に実施していくために、姿勢が一貫した「個別支援計画」を策定し、具体的な内容、方法等を計画、実施、評価(Plan-Do-See)をしてよりよいものへ改善していくことが重要である(平成15年「特別支援教育のあり方に関する調査研究者会議報告」より)。
(2009年仏教大学教育学部講義レポートより転載)
(2009年仏教大学教育学部講義レポートより転載)